教員紹介2021.08.23

【教員紹介】心理学部 破田野 智美 専任講師を紹介します

世界はなぜ、こんなにもあたりまえに見えるのでしょうか。ほとんどのものはあまりに「実際」に近く「見える」ので、不思議に思わないかもしれません。しかし私たちが見ているすべてのものは、脳が処理をして適切に見せてくれているものなのです。聞こえるもの、嗅ぐもの、味わうもの、触れるものも脳の処理を経て感じています。これらは、こころの入り口であり、知覚心理学の研究関心です。

 私は知覚心理学に興味を持ち、最初は錯視の実験をしました。実際と見えるものとの間にズレが生じる錯視は、視覚メカニズムの解明に寄与すると考えましたし、何より面白いと思ったからです。またその後は写真のなかの三次元空間の見え方を実験的に検討しました。2020年にはじまったコロナ禍で外出の自粛が必要になったとき、屋外で人々の密集する様子が写真つきで報道されました。その後、写真の撮り方によって、密集の度合い、つまり人の間の距離が違って見えることが指摘されましたが、これはまさに2018年に公刊された著書「写真のなかの距離の知覚」で私が検討した課題のうちの1つでした。こちらも実際と見え方とが異なる事例ですね。ここから発展して、ほかにも撮り方によって印象が大きく異なる問題(例えばいわゆる角度詐欺など)にも実験的検討を加えています。

 縁をいただいて勤務していた関西学院大学感性価値創造インスティテュートでは、企業との共同研究をする機会に恵まれました。それぞれの領域の専門家である企業の方の知恵をお借りしながら、いままさに必要とされるデータ蓄積のために実験や調査を計画立案し、得られたデータを分析する経験はとても得難いものでした。たとえば最初の緊急事態宣言下にあった20205月には、参加者のご自宅にアロマオイルとディフューザーをお送りして調査を行い、在宅勤務のため、子育てや家事だけではなく仕事までも自宅で行うことになった女性たちが特に大きなストレスを抱えていたこと、アロマオイルの芳香浴をすることでその方々を含む参加者の活性度や安定度が上昇し、快適な気分になったことを明らかにしました。

 こころは直接目には見えませんが、きちんと測って分析し、可視化する(目に見えるかたちにする)と、明らかになることがたくさんあります。皆さんとともに実験や調査を行い、新しい可視化ができればと願っています。

 

心理学部 専任講師 破田野 智美

 

【著書】

竹澤智美(2018. 『写真のなかの距離の知覚』風間書房.(文中で紹介)

名取和幸・竹澤智美(著)・日本色彩研究所(監修)(2020. 『要点で学ぶ、色と形の法則150』 株式会社ビー・エヌ・エヌ新社.(錯視を含む色や形にかかわる現象を簡潔な文章とイラストで紹介)

【翻訳】

Gibson, J. J.(1950. The Perception of the Visual World. 東山篤規・竹澤智美・村上嵩至訳(2011. 『視覚ワールドの知覚』東京:新曜社.(なぜ、物は見えるように見えるのか?に迫ったギブソンの古典的名著)

発信部署:心理学部