学長ブログ2023.12.11

20年ものの蔵囲昆布の味

授業で昆布出汁の話をしていてふと思い出した。もう何年も前の話である。

高級昆布は北の海で採られて、敦賀あたりの昆布問屋で何年も寝かされる。いわゆる蔵囲いである。
敦賀の老舗昆布卸の奥井海生堂のご主人に20年ものの昆布があると聞かされた。
20年以上前から蔵に保存してあるという。何年か前に出汁を引こうとしたがもう出なかったという。
昆布はミネラルの多い硬水では出汁が出ない、反対に軟水ではよく出る。
では、超軟水ならば20年間寝ていた昆布も出汁を出すだろうと考えた。
超軟水、つまり蒸留水である。
硬度ゼロ。実験室の蒸留水をガラスボトルに詰めて敦賀に向かった。
20年ものの昆布は蔵の引き出しに安置され、紙で包まれて製造年が墨書されていた。確かに20年以上前であった。

持参した超軟水の威力は明らかで、井戸水では出なかった20年ものの昆布がわずかに柔かくなり、ほのかなうま味が現れた。
「もう、この昆布の味を口にするのは諦めていました」ご主人の奥井さんは目をつむって何度も頷いていた。